「宇宙戦艦ヤマト」の権利は誰のもの

最終更新日: 2010/11/09

一口に「著作権」といっても、実はいろいろ。 広義の「著作権」は、「著作者人格権」と狭義の「著作権」(いわゆる著作財産権)を含みます。

■ 用語の説明 ■

ここではなるだけ簡単に説明します。 とにかく「著作者人格権」と(狭義の)「著作権」とは別モノってことに注意しましょう。

著作者・・・創作した人。著作者人格権を持つ人。
著作者人格権・・・創作物を勝手に改変させないなどの権利。

著作者人格権は著作者が“著作者であること”に由来して持つ権利です。 したがって、著作者人格権は著作者だけが持ちます。 他人に譲渡したり後から変更したりはできません。

これは、“著作者であること”を他人に譲ったり後から変更したりできないのと同じことです。 後からできるのは、せいぜい「この人が著作者だったんだね(著作者人格権を持つ人だね)」と確認するか、「この人が著作者らしいね?」と推定することぐらいです。

著作権者・・・著作権を持つ人。
著作権・・・創作物を複製したり上映したりする権利。

著作権は、著作者人格権と違って譲渡できます。 したがって、著作権は著作者が持っているとは限りません。 いいかえれば、著作権者は著作者と同一人物であるとは限りません。

もっと詳しい話は興味があったらどうぞ。

■ 「ヤマト」の著作者は誰か ■

【一言でいうと】

結論からいうと、「ヤマト」の著作者が誰であるかについては、法律上はハッキリした決着がついてません。 西崎義展松本零士両氏は“両氏が共同の著作者”ということで合意しています。

【もうちょっと】

1999年9月に始まった著作者裁判では、西崎氏と松本氏とがどちらが「ヤマト」の著作者であるかを争っていました。 2002年3月、第一審判決では、「ヤマト」の制作状況などが仔細に検討され、西崎氏こそが著作者であると確認されました。 松本氏はこれを不服としてすぐに控訴したけれど、2003年7月、控訴審の判決前に、両氏が裁判外で和解し、双方が訴えを取り下げるという形で決着しました。 これによって判決は効力を失いました。

その和解で両氏は、“著作者であること”について概ね次のようなことを確認しました。

  • 作品全体については、両氏を共同の著作者である。
  • 西崎氏が代表して著作者人格権を専ら行使することができる。
  • 西崎氏は著作者およびその代表者として制作・監督をした。
  • 松本氏は総設定・デザイン・美術を担当し、それに関する絵画の著作物の著作権者である。

ただし、これはあくまでも裁判外の和解であり、いわば両氏の間だけの約束事です。 そのため、両者の間ではこれで争いが決着したものの、第三者に対して何らかの法的な強制力があるわけではありません。

しかし、この和解以降、各社のビジネスは大体この和解を踏まえて展開しているようです。

著作者裁判の判決文や西崎・松本両氏の和解の詳細は、それぞれのページをご覧ください。

西崎・松本両氏の和解における「確認」とは、実際になんらかの確認作業を行ったということではなく、紛争解決の手段としての「約束」と見るべきでしょう。 少なくとも、両氏が“著作者であること”をどういう根拠や手順によって確認したのかについては一切発表されていません。 また、第一審判決の検討内容に対して訂正や反論なども一切なされていません。

結局、実際のところ誰が「ヤマト」の著作者であるかについては、誰もが納得しうるような筋の通った説明や、誰もがハッキリそれと確認できる根拠はないまま、西崎・松本両氏が「我々が著作者だ」と名乗りをあげているという状況です。

この意味では、実際に確認作業を行った著作者裁判第一審の判決文は貴重な資料といえます。 この判決は和解によって効力を失いはしましたが、もともと判決の効力というのは“主文”(訴えに対する裁判所からの回答にあたる部分)にのみあるものです。 “主文”の根拠である検討や判断の部分については、「正しいか誤りか」を問うことはできても、「効力があるかないか」を問うことはそもそもナンセンスです。 「何が正しいのか」を考える上では、数々の証拠や判断をまとめたこの判決文は、資料的価値が非常に高いものになっています。 一方、両氏の和解には、和解書の公開された部分を見る限り、そういう意味での資料的価値はありません。

ただし、この判決文が絶対的に正しいと考えることは避けるべきでしょう。 特に、著作者裁判の第一審はあくまでも“西崎氏vs松本氏”という枠組みの中で行われたものであるため、両氏が共同著作者であるという可能性や、両氏以外の人物や法人(例えば、西崎氏個人ではなく西崎氏の会社)が著作者であるという可能性は、この判決文では全く考慮されていないことには注意する必要があるでしょう。 また、東京地方裁判所の裁判官とて人間ですから、絶対確実というわけではありません。 つまり、この判決文は法律の専門家が出してくれた貴重な資料ではありますが、だからといって最終的な結論ではない、ということです。

# まあ、よくわからないから考えるのが楽しいってのもありますけどね(笑)

■ 「ヤマト」の著作権者は誰か ■

【一言でいうと】

西崎氏から著作権を譲渡された東北新社が持っている、、、と思われていました。 その後、パチンコ裁判で「それ違うんじゃない?」という話が出ました。 しかし結局「東北新社が著作権者」ってことで落ち着いたみたいです。

【もうちょっと】

かつてはウェストケープ・コーポレーション(代表は西崎氏)が著作権を持っていました。 これが、1996年12月に作成された譲渡契約書にもとづいて、東北新社に譲渡されました(と世間的には信じられていました)

そういうわけで、最近売られているDVDや関連商品のパッケージのCマークには東北新社の社名が入っています。
# ただしCマーク表示って法的にはあんまし意味がないそうな

なお、この譲渡契約書によると、新たな映像作品を製作する権利は西崎氏に留保されます。 ただし東北新社は、新作を製作する権利も同社が全て握っていて、西崎氏にも松本氏にも許諾は与えていない、と主張しています。

一方、2004年から始まったパチンコ裁判では、東北新社が本当に著作権者なのかが争点の一つになりました。 2006年12月の第一審判決はこれを否定し、「ヤマト」の著作権はウェストケープから東北新社へは譲渡されなかったと判断しました。 というのも、この譲渡契約書の記載内容は、当時の著作権者であるウェストケープから東北新社への譲渡ではなく、西崎氏個人からの譲渡というものだったからです。

東北新社はこの判決を不服として控訴しました。 のちに被告5社と東北新社は和解し、5社の一部から東北新社に和解金が支払われました。 この和解金の主旨を含め、和解の詳しい内容は公表されていません。 とにかく、東北新社は「著作権を正当に保有する会社として、今後も同作品の権利ビジネスを積極的に展開していく意向です」と宣言して、実際にその通りにビジネス展開しています。

著作権譲渡の経緯はかなり複雑です。 詳しくは、裁判の歴史および譲渡の経緯をご覧ください。

パチンコ裁判について補足します。
この裁判は、東北新社が著作権者であるかどうかを確認するための裁判ではありませんでした。 そのため、第一審判決の“主文”もそれについては何もいっていません。 著作者の項にも書いたように、判決の効力は“主文”にのみありますから、最終的にこの第一審判決が確定したとしても、東北新社の著作権が即無効になったわけではありません。 ただし、東北新社に権利がないという話を同社が法廷においてひっくり返せなかった場合、同社の以後のビジネスに支障が生じることは避けられなかったでしょう。

ちなみに、この譲渡契約書を作るにあたっては、まずウェストケープ側の社員が資料を提示し、それにもとづいて東北新社側の弁護士が草案を作りました。 このときウェストケープ側の提示した資料に「著作権者は西崎氏」と書かれていたのが、そもそもの問題の根源だったようです。 ウェストケープという会社では、会社の権利と西崎氏個人の権利とが明確に区別されていなかったのかもしれません。 しかし、譲渡契約の履行にあたっては、西崎氏だけではなく、ウェストケープの破産管財人がかかわっています。 東北新社にしてみれば、ウェストケープ側の人間が売るというから大枚をはたいて買ったのにそれを無効といわれてはたまらない、という心境だったんじゃないかなあと思います。

■ まとめ ■

著作者裁判外の和解では西崎・松本両氏
著作権者東北新社

「ヤマト」の権利関係についてはいろいろもめましたけど、そろそろ落ち着いてほしいですねー。

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