「ヤマト」劇場版における設定デザインの二次使用契約

最終更新日: 2007/01/10

1977年8月6日に公開された「宇宙戦艦ヤマト」劇場版について、1977年8月17日に松本氏は設定・デザインの二次使用料として1000万円を受け取る契約を結びました。 これについて、わずかながら著作者裁判の第一審判決の中で言及されてます。
# 契約の名称は不明、だからこのページのタイトルも適当

■ 契約までの経緯 ■

クレジットからもわかるように、「ヤマト」の最初のTVシリーズでは松本氏は設定デザイン、絵コンテ、監督などを担当しました。

「ヤマト」劇場版はこのTVシリーズのほぼ再編集版として作られました。 劇場版の製作には松本氏は参加していません。 劇場版の設定デザインはTVシリーズからの流用であり、監督は舛田氏が担当しました。
# ほぼ再編集版であるため、劇場版では絵コンテのクレジットはなし

判決文によると、劇場版が大ヒットしたため、松本氏は西崎氏に対して権利を主張したとのことです。 そのためか、契約は公開の11日後の日付になっています。

■ 契約の内容 ■

判決文での言及部分をまるまる引用します。 文中の「原告」は松本氏、「被告」は西崎氏のことです。 また、「本件著作物1」はTVシリーズ、「本件著作物2」は劇場版のことです。

昭和52年8月17日,原告と被告とは,本件著作物2は,本件著作物1のフィルムを基にして新たに製作された作品である旨,原告は「設定・デザイン」を担当したメインスタッフとして,本件著作物1により発生している本件著作物2についての二次使用料1000万円(構成料・デザイン料等)を被告から受ける旨合意した(乙10,32,被告本人尋問の結果)。

なんだか言い回しが難しい。 平たくいうとこういう合意:

  • 「ヤマト」劇場版は、TVシリーズのフィルムを基にして新たに製作された作品である。
  • 松本氏は、設定・デザインの二次使用料1000万円を受け取る。

■ 契約の意味 ■

この契約は“設定デザインの二次使用”にかんする契約であって、原作者や著作者についての確認ではありません。
判決文から上の引用部分の続きをさらに引用します。

しかし,同契約は,本件著作物1について,原告が著作者であることを認めて,その二次使用料の支払を受けるという趣旨を合意したものでないことは明らかである。

契約内容の詳細は不明ですが、法律の専門家が公平な立場から読んで「明らかである」とまでいってるわけですから、その判断は信用していいでしょう。
この判決文中の判断は、「財界展望」1999年(平成11年)5月号の記事中にあった西崎氏の手記とも整合します。 西崎氏の手記から、この契約にかんする部分を引用します。

今ならTV企画書以外にも、契約書が『松本零士関連、契約書』という形で残っており、この中で、彼は原作、著作は主張しておらず、且、壱千萬の現金を受け取っている受領証もあります。

ついでにいうと、
このように契約を結んだのは、これ以前には二次使用にかんする契約がなかったということの裏返しでもあります。 この点については西崎・松本両氏のどちらかが一方的に悪いということではなく、それぞれに責任の一端があるといえるでしょう。 こういうところにも後日のトラブルの萌芽はすでにあったわけです。

ただ、大体こういうのはお金を支払う側の責任が重いんじゃないでしょうか。 事前に権利関係を確認しておかなかった西崎氏の手落ちは否めません。

もっとも、
TVシリーズ放映当時のアニメ業界ではそれでよかったんでしょうけどね。 こういうところからも、「ヤマト」があれほどのヒットを飛ばすとは誰も予想していなかったことがうかがえますね。 それを考えると、赤字を背負い込んでまで劇場版を完成させた西崎氏の手腕はやはり評価に値するといえるでしょう、、、 けど、それは権利関係とは別の話。

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